PMP News : ―改正労基法・改正安衛法― 36協定の実務 その2 特別条項 その他

前回に続いて、今年4月から施行される改正労基法関連のうち36協定の実務を取りまとめてみました。
今回は、特別条項付き36協定についての改正法の留意点を中心として説明しましょう。
特別な事情のある場合に時間外労働の月間上限時間である45時間、年間上限時間である360時間を超えて時間外労働をさせる事の出来るという“特別条項”付き36協定は、今や全企業の約4割、その内大企業では6割を超える企業で導入されていると言われています。今回の改正労基法ではこの特別条項付36協定を締結する際にいくつかの大きな変更が必要となりました。

1. 特別条項付き36協定が発動される「特別な事情」について
これまでは、この特別な事情は「臨時的なもの」に限るとされ、行政解釈では、「-時的又は突発的に時間外労働を行わせる必要があるもの」としていました。これが今回変更され「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第3項の限度時間(筆者注:1年変形労働時間制を除き1か月45時間、1年360時間)を超えて労働させる必要がある場合」(改正労基法第36条5項)に書き改められました。
もっとも昨年12月厚労省がリリースした「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」では、特別条項発動事由の例として、予算・決算業務、ボーナス商戦に伴う業務の繁忙、納期のひっ迫、大規模なクレームへの対応、機械のトラブルへの対応があげられていますが、これらの例示は従来の厚労省通達(平成15.10.22 基発第1022003号)内容と全く変わっていません。今回の労基法改正関連で発表された厚労省の解釈通達Q&A(平成30.12.28基発1228第15号)では「通常予見することのできない業務量の増加」は一つの例であると整理されており、「実際の協定に際しては労使当事者が自主的に協議し、可能な限り具体的に定める」と結んでいます。これも参考としてください。

2. 1か月と1年の上限時間について
改正により、特別条項発動時の1年間の上限時間は、労使合意に基づく協定においても法律上上回ることのできないものとして720時間と設定されました。この上限時間には休日労働は含まれず、時間外労働のみの上限時間となります(改正労基法第36条5項)。休日労働を含める1か月および複数月平均の上限時間と混同しないようご注意ください。
そのうえで、「1か月の上限時間は休日労働を含み100時間未満」となり、また特別条項の発動できる月は年6か月が限度(限度回数は従来と同様)となります(改正労基法第36条5項)。特別条項のない36協定と同様に、「2か月から6か月を平均して休日労働を含み80時間を超過しないこと」も適用されることになります(改正労基法第36条6項)。かかる文言を36協定に記載しチェックボックス欄を設け、そこにチェックを入れることは特別条項を定めない36協定と同様に行わなければなりません。
なお、この1か月および複数月平均の上限時間にかかる違反は、労基法32条6項違反として、(年720時間の上限時間にかかる第32条違反とは別に)改正労基法第119条1号の罰則が適用される点にご注意ください。

36協定の管理では、多くの企業ではシステムを導入されていると想像しますが、4月以降は1か月および複数月平均では休日労働を含み、1年では休日労働を含まないという要件を満たすため、2段階の労働時間管理を行う必要があります。

3. 健康確保措置について
特別条項付36協定の締結の条件として改正労基法で新たに定められた要件がこの健康確保措置の設定です。望ましい措置として挙げられた以下からいずれかを選択し、さらに具体的実施方法を定めた上で、月45時間(除、1年変形労働時間制)の限度時間を超えて働かせる場合にかかる措置を実施することになります。実施状況は記録に残し、記録は3年間の保存義務があります。なお、付言すれば、以下の健康確保措置項目のうち④以降は裁量労働の場合の健康福祉措置と同様のものです。

① 労働時間が一定時間を超えた者に対する医師による面接指導の実施
② 深夜労働の回数制限(なお労働安全衛生法では1か月4回以上は特別健康診断の要件となることも参考にされたい)
③ 終業から始業までの一定の継続した休息時間(使用者の拘束から解放される時間いわゆる勤務間インターバル)の確保
④ 勤務状況・健康状況に応じた代償休日または特別な休暇の付与
⑤ 勤務状況・健康状況に応じた健康診断の実施
⑥ 年次有給休暇について、まとまった日数の連続取得を含めた取得促進
⑦ 心とからだの健康相談窓口の設置
⑧ 勤務状態・健康状態への配慮、必要な場合、配置転換すること
⑨ 必要に応じて、産業医等の助言指導を受け、または産業医等による保健指導を受けさせること

最後に、運用開始日について
今回の改正労基法による新しい36協定の施行日は2019年4月1日ですが、実際には「4月1日以後の期間のみを定めている協定」について届出することとされています。(4月1日前の期間を含む協定は、4月1日以降も現協定が有効。)したがって、各社におかれては自社の現行の36協定期限をまずご確認の上、新労基法下の36協定を自社はいつ締結するのかをご判断ください。さらに、以下に該当する中小企業については「来年2020年4月1日以後の期間のみを定めている協定」から届出することとなります。

業種

資本金/出資の総額

 

常時使用する

労働者数

小売業

5000万円以下

OR

50人以下

サービス業

5000万円以下

OR

100人以下

卸売業

1億円以下

OR

100人以下

その他

3億円以下

OR

300人以下

(企業単位)

以上