同一労働同一賃金 その1 大山鳴動か??

 2020年4月の短時間有期雇用労働法(以下「同法」)の施行に伴い、同一労働同一賃金の動きは加速し、企業の人件費負担も上がるのではないかと思っていました。この所、随分と静かのように思います。このような労働法の大改正の際には花盛りとなるはずのセミナーもあまり見かけません。各都府県の労働行政関連の所轄に色々と細かい実務上の質問を投げてみましたが、満足な回答はあまり返ってこないように思っています。これまでの事実を整理しながらその背景を考えてみました。連載のニュースとなります。今回が第一弾です。

 最初にお知らせしたいのは、同法条文からの発見ですので、お気づきの読者も多いかもしれません。リスクマネジメント上で重要視すべき企業名公表という処分については後述しますが、均衡待遇違反の場合は心配する必要はありません。

 ご存知の通り同一労働同一賃金は、同法9条、通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止、これがいわゆる均等待遇で「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない」とされています。しかしながら、実際には通常の労働者と同視すべき非正規労働者の存在は極めて限定されるはずです。契約社員が正社員と同じ仕事をしていたとしても、詳しく見ると、例えばトラブル対応の責任、最近の台風の水害など大規模自然災害等の緊急時に出勤すべき順番など責任の程度までを考えると“同視”すべき状態ではなくなるように思います。正社員との違いのチェックポイントは他にもたくさんありますが、ここでは議論を元に戻すことにします。 企業で注意しなければならないのは、同法8条(不合理な待遇の禁止)の違反です。
 「職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」不合理な相違を法違反とし、差はあってもバランスの取れた差に収めるべきと言う所謂均衡待遇が同法8条の規定です。厚労省が細かい手当や福利厚生まで言及したガイドラインもあるため、人事では正社員と非正規社員の処遇格差についての見直しに着手されておられる事と思いますが、均衡待遇、どこまでの格差がバランスが取れていると認容されるかについては、実務になると随分と頭を悩まされておられる事と思います。次号以降で述べますが、厚労省のガイドラインは最初の「基本的考え方」には、不合理と認められる“等”の“可能性がある”としており、各企業の事情によっては、必ずしもガイドラインの個々の字句通りの厳格な見直しは必要はないかもしれません。真面目に同一労働問題に取り組んでいる企業ほど実は、どうすれば良いのか?途方に暮れるというのが本音ではないでしょうか?
 第一稿では、まずは安心感を示し、その上で4月に向けてやるべき事をお示ししようと思います。
 同法第18条第2項では、厚生労働大臣(実際は各労働局長)の勧告に従わず企業名を公表する場合として、「第6条第1項、第9条(以下略)」違反と定めています。第9条は均等待遇違反ですが、多くの企業が心配している第8条の均衡待遇については、労働局長の勧告に従わなくとも企業名は公表されないという仕組みとなっています。
 企業名公表をキーワードとして捉えるのであれば、同法14条の第2項「求めがあった通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由」などについて「説明しなければならない。」と言う、企業の説明責任をまずは心配すべきだと思います。その意味では来年4月の施行前の準備として、非正規社員の研修・福利厚生も含めた処遇差はすべて洗い出し、企業としての説明、各社が考える各社なりの理由をまず整理していただきたいと思います。仮に、各社なりの理由が、厚労省のガイドラインと比較すると異なっている場合でも、まだこの時点では性急に見直しに着手する必要はないだろうと思います。(次号に続く)