PMP News : 長澤運輸・ハマキョウレックスの最高裁判決 3/3  働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律

2回にわたって、先日の最高裁判決を説明してきましたが、会社は、来年4月以降、同一労働同一賃金についてはさらに一層の配慮が求められることになります。7月6日付で、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律が公布されました。
https://www.mhlw.go.jp/content/000307766.pdf

振り返れば、平成27年第189回通常国会で改正労働基準法案が厚生労働省より国会に提出されるも審議入りすらされず、ズルズルと時間ばかりが空費された挙句に“働き方改革”関連法案としてこの労基法改正案も含む主要労働法7法の一括改正法案の形で、今196回通常国会で、あっという間に成立しました。この“一括法”の中に同一労働同一賃金の関連も含まれています。

これについて若干の考察を加えてみよう。
1. まず注意しなければならないのは、長澤運輸事件、ハマキョウレックス事件、その他同一労働同一賃金に関連する係争の際に根拠とされていた労働契約法第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)は削除される。代わって、まだ先の話だが、再来年(平成32年)4月1日より「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法(いわゆるパートタイム労働法)」が「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法」(以下、便宜上「改正パートタイム等労働法)という)に改正施行される。この改正パートタイム等労働法が同一労働同一賃金の根拠法となる。

2. 労契法では、同一労働同一賃金問題は、有期契約社員と無期契約社員間の問題だった。来年4月以降は、有期契約社員・有期パートタイマー・無期パートタイマーと無期契約社員(除く無期パートタイマー)間の問題となる。要は無期パートタイマーが同一労働同一賃金の対象に含まれるようになり、比較の仕方が従来より錯綜してくるように思う。この時点で注意しておきたいのは、今年4月から労契法第18条の無期転換により長期勤続のパートタイマーで無期転換の権利行使者が出現していると思うが、無期パートタイマーの労働条件を新たに設定する場合は、再来年以降の改正パートタイム等労働法の規定も念頭に入れて検討しておく必要がある。   

3. 労契法第20条の均衡待遇は、改正パートタイム等労働法の第8条(不合理な待遇の禁止)でカバーされる事になる。労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないとしている。均衡待遇の基準である、職務の内容、職務の内容と配置の変更の範囲、その他の事情については労契法第20条と軸を同じくしている。

4. 改正パートタイム等労働法第9条(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取り扱いの禁止)では、職務の内容が同一のパートタイム等労働者に対しては基本給、賞与、その他の待遇のそれぞれについての均等待遇を要求している。

5. 労契法は民法であるため、同一労働同一賃金のトラブルは裁判による解決手段しかなかったが、改正パートタイム等労働法は、紛争の解決に援助を求められる時は都道府県労働局長(これまではパートタイム労働法の窓口は各都道府県の均等室)必要な助言、指導または勧告をすることができるとなる。また労働局長は紛争調整委員会に調停を行わせることもできるとなる。要は、会社を訴える前に行政に簡単に相談に行くことができるようになる。再来年4月以降は人事労務部門では同一労働同一賃金についてのトラブルシューティングに一層の時間を要する事態が想定される。その意味では早めに自社の処遇体系を見直されることを強くお勧めする。

最高裁判決も踏まえて総括すれば、
1. それぞれの手当について、同一労働同一賃金の観点からのチェックが必要となる。今も、契約社員の給与規程では「XX手当 支給しない。」との表現は珍しくないが、正社員に支給する手当を契約社員に支給しない場合は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情の観点からなぜ支給しないかを合理的に説明する必要がある。

2. 処遇体系の中で最も金額も大きい基本給については、最高裁では結局は人事の実務で参考となるような判断をしていない。同一労働同一賃金の厚労省ガイドラインでも基本給が①職業経験・能力に応じて支給される場合、②業績・成果に応じて支給される場合、③勤続年数に応じて支給される場合の3つにわけて論じているが、実際の基本給はそのような単純な構造ではなく、①②③を混合し、さらに職種や職務、あるいは競合他社の基本給水準等々様々な要素を総合的に勘案して決定されている。要は基本給の決定要素は今は一種のブラックボックスにある。最高裁判決を踏まえれば、処遇で一番重要な基本給体系はそのままブラックボックス化していても問題はないように思うが、一方で、最高裁判決からの法的リスクは回避できても、わが社では社員各自の基本給額がどのように決定されるのかという説明責任が果たされないままの現状が放置されることになる。

長らく、日本の基本給は新卒から定年までの長期安定的雇用機会の提供に基づく職能資格給体系で設計されてきたが、終身雇用はとうに伝説と化し、労働市場はますます流動化し、一方で政府は産業構造の展開に伴う労働力移動を促進しようとしているという外部環境の大きな変化を真剣に考えれば、基本給体系そのものの見直しに着手する時期が到来しているように思える。

以上